犬の涙やけの基本的ケアについて

 
犬の涙やけ(流涙症)の原因についての章でお話ししたように、流涙症の原因はたくさんあります。効果的なケアをするためには、流涙症の原因を正確に診断しなくてはなりません。そのため、まずは動物病院で検査を受けることが必要です。

動物病院でのケア

動物病院を訪れる前に

動物病院で診察を受ける際に、以下のような質問を受けることがあります。あらかじめ、このような変化について観察しておくと、診断の手助けになるでしょう。

  • いつごろから涙がたくさんでるようになったか。
  • 涙は両方の目、もしくは片方の目からでているか。
  • 目を痒がることはないか。
  • 目をしばしばさせることはないか。
  • 鼻から膿汁のような鼻汁がでているか。
  • 鼻が乾燥しているもしくはひどく濡れていないか。
  • 目ヤニがでているか。目ヤニがある場合、どのような色でどの程度(1日に何度も拭き取るほどたくさんでている、もしくは、1日に1回拭き取る程度)でているか。

目の周りの被毛チェック

目の周りの被毛が目を刺激して涙が絶えずでることがあります。目の周りの被毛が長いかな?と思ったら、まずはトリミングで目の周りの被毛をすっきりさせてみると症状が改善するかもしれません。

動物病院で行う検査

目の検査(視診)

まず、涙が出ている目を肉眼的に検査します。逆まつ毛はないか、眼瞼内反はみられないか、眼の外傷はないか、結膜炎に罹っていないか、眼とその周囲に腫瘤や異物はないかなどを確認します。

フルオレセイン染色検査

鼻涙管の閉塞が疑われる場合には、フルオレセイン染色検査が行われます。この検査は、角膜に擦過傷があるかを確認するときにも使われています。フルオレセインという蛍光染色剤が含まれる試験紙を眼球にそっとつけ、数分後にこの染色剤が含まれる涙が鼻からでてくるかどうかを検査します。この検査では、フルオレセイン染色の前に点眼麻酔を行うこともあります。

その他

眼底検査や眼圧検査、スリット検査、レントゲン検査などを行い、いろいろな眼の病気や鼻の病気、鼻涙管、涙嚢、涙点などの病気を検査します。

動物病院での治療

流涙症の治療法は、その原因により異なります。

まつ毛の異常

逆まつ毛など、まつ毛が眼球に接することで涙が出てしまう場合には、まつ毛の除去が必要となります。これには、まつ毛を脱毛する方法と、まつ毛が生えている皮膚ごと除去する方法があります。

まつ毛の脱毛には、シンプルな毛抜きやレーザー脱毛、凍結脱毛などがあります。シンプルな毛抜き法では、まつ毛が新しく生えるごとに処置が必要になりますが、レーザー脱毛では半永久的な脱毛が、また、凍結脱毛法では、シーズーや子犬を除いてほぼ永久的な脱毛が可能です。

また、異常なまつ毛の毛根を皮膚ごと除去する外科手術は、異常なまつ毛が再度生えてくることはありませんが、犬の顔つきが変わってしまうことがあります。

動物病院によって、設備や治療法は異なるため、まずはかかりつけの動物病院に相談してみることをおすすめします。

凍結まつ毛脱毛法

凍結まつ毛脱毛法は、あまり聞いたことがないかもしれませんが、日本の特定動物病院や、海外の動物病院で実施されている方法です。この治療法は、異常なまつ毛が生える毛包を、液体窒素プローブで凍結させ、まつ毛を除去する方法です。

この治療を行う際には、通常、全身麻酔が必要になります。手術後、約4~5日間は手術したまぶたは腫れ、術部の色は白~ピンク色になりますが、およそ4ヶ月以内に元の色に戻ります。術後、手術した部位からまつ毛が生えることはありませんが、シーズーや3歳以下の子犬や若い犬では新たにまつ毛が生えることがあります。

眼瞼内反症

眼瞼内反症には、眼瞼形成術という内反しているまぶたを矯正する外科手術が必要になります。この手術では、内反しているまぶたの皮膚を少量除去し、内反部を引っ張ることで内反を改善させることができます。この手術には全身麻酔が必要となり、術後、犬の顔つきは変わってしまう可能性があります。

生後6ヶ月齢以下の子犬では、成長と共に眼瞼の内反が良化することがあるため、内反を防止する眼瞼の縫合だけを行うこともあります。

目の炎症性疾患

結膜炎や角膜炎など、眼の炎症性疾患と診断された場合には、抗生剤(感染が疑われる、もしくは診断された場合)や抗炎症剤、抗アレルギー剤(アレルギー性疾患が疑われる、もしくは診断された場合)の点眼薬や眼軟膏などが処方されます。また、アレルギー性疾患が疑われる場合には、アレルギーの元となるアレルゲンの除去や食餌療法などによる治療が効果的な場合があります。食餌療法については、「涙やけ(流涙症)~その他のケア~」という記事で詳しくご紹介します。

鼻涙管の異常

感染による膿の貯留により鼻涙管の閉塞や狭窄が起きている場合には、まず鼻涙管の洗浄を行います。先天的な要因や洗浄などによる鼻涙管の貫通が難しい場合には、鼻涙管にカニューレを挿管する手術を行うこともあります。

外科的および内科的治療が困難な症例

短鼻犬種で、目や鼻の異常はなく、アレルギーの可能性も除外された場合には、お家でのケアがメインとなります。このような場合のお家でのスペシャルケアについては、「涙やけ(流涙症)~その他のケア~」という記事で詳しくご紹介します。

お家での基本的ケア

原因が究明され、手術や処方薬などで流涙症の治療を開始しても、すぐに涙を止めることはできません。

涙が継続的に流れると、目頭から鼻にかけて茶色いラインができてしまいますし、皮膚炎を起こすこともあります。そのため、症状が改善されるまでは定期的に涙を拭いてあげることが必要です。

毎日の涙拭き

継続して流れ出る涙は、お湯もしくは滅菌生理食塩水で湿らせたコットンでやさしく拭いてあげることが大切です。目ヤニがでている場合には、まずは湿らせたコットンで目ヤニを取り、新しい湿らせたコットンで涙が流れる部位をやさしく拭いてあげます。

1日1回が目安ですが、目ヤニや涙の量により調節します。何度も強く拭きすぎたり、薬剤を過剰に使ってしまうと、それが刺激となって涙が出てしまったり、皮膚炎を起こすことがあります。

また、犬にとって涙拭きがトラウマになってしまうことがあるので注意が必要です。

涙やけ(茶色いライン)ができてしまったら

涙やけの原因は、涙に含まれるポルフィリンや、マラセチア感染が考えられます。涙の過剰分泌をコントロールでき、マラセチア感染がある場合にはその治療を行うことにより、茶色いラインは徐々に薄くなります。

しかし、長い間流涙症に罹っている犬や、流涙症の治癒が困難な犬では、かなり濃い色のラインが着色されることがあります。

そのような場合には、ドキシサイクリンやテトラサイクリンなどの抗菌剤による治療で効果を示すことがあります。ただし、このような薬剤は耐性菌の発生が懸念されるため、長期的な使用はお勧めできません。

なお、過酸化水やホウ酸を使った涙やけの洗浄法がいくつかのサイトで紹介されていますが、過酸化水は眼球にダメージを与え、ホウ酸も目の刺激となるため、おすすめはできません。

皮膚炎を起こしてしまったら

涙やけの部位が赤くただれてしまったら、早急に動物病院での治療が必要です。

病院に行くまで、できるだけ犬が皮膚炎の部位を手や足で掻かないよう注意しましょう。(できればエリザベスカラーなどで顔を保護してあげるとよいでしょう。)

 

参考文献およびURL

[1]Animal Eye Care LLC, Canine eyelid disease
[2]VCA, Eye Discharge or Epiphora in Dogs
[3]医学大辞典、南山堂
[4]Theresa Welch Fossum et al, Small Animal Surgery,2nd ed, Mosby
[5]幡谷正明ら、家畜外科学、第4版、金原出版